第4章 ビジネスの基本

 この章では、未然防止を成功に導くためのビジネスの基本的な仕事術をお伝えします。

 

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≪目次≫

4-1. 未然防止は、想像力と創造力が大切 ⇒ 他社・他業界からの学びのために

4-2. ロジカルシンキングのスキルを高める ⇒ 分かりやすく、筋が通っていること

4-3. ビジネススキルの向上 ⇒ スキルが上がれば、ミスは減少する。社員教育はオーダーメード

4-4. 伝える力1 ⇒ 具体的に、定量的に、一義的に伝える

4-5. 伝える力2 ⇒ 起承転結よりも、PREP法が有効

4-6. 聴く力 ⇒ 相手の要求を読み解く力

4-7. ダイバーシティ(多様性)の尊重 ⇒ 同質の人たちだけでは、リスクに気付けない

4 - 4. 伝える力1 ⇒ 具体的に、定量的に、一義的に伝える

 「言った、言わない、聞いていない」等々、日常のコミュニケーションで、話しが伝わらないと感じたことはありませんか。実は、聴き手に話が伝わっていない時点で、もうトラブルが始まっている可能性があります。話しが伝わらないのは、聴き手の理解力が足りないこともありますが、ほとんどの場合、話し手の伝え方に問題があると考えます。つまり、話し手に責任があるということです。

 

 では、どう伝えればいいのでしょうか。次の4つの視点から伝わる伝え方を解説します。

     ❶具体的に、❷定量的に、❸一義的に ❹形容詞を使わずに伝える、

❶ 具体的に伝える

  •  悪い例:タクシーを降りる際、運転手が、「忘れ物がないようにしてください。」と言いました。

 この伝え方は、抽象的で分かり切ったことなので、乗客がこう言われても、特に何もチェックしないでしょう。その結果、座席の下に落としたスマートフォンに気付かず、タクシーから降りることになるかもしれません。

  •   良い例:「座席の上と下を確認し、手荷物を持ち帰ってください。」

 このように具体的に注意喚起すると、乗客が取るべき行動が明確になるので、言われた通り、乗客は確認することでしょう。そして、運転手は乗客の行動を見て、自分の意図が正しく乗客に伝わったことが分かります。

❷ 定量的に伝える

  • 悪い例:建設現場で、設計ミスによって、重量物を引き上げるフックの脱落事故が発生しました。

 この伝え方では、フックの耐荷重やフックが脱落したときの重量がわからないので、設計ミスの程度が不明です。

  •   良い例:耐荷重4tのフックを設計すべきところ、500kg程度の荷重でフックが脱落しました。

 定量的に伝えると、フックの設計不具合状況がよくわかります。この例では、設計上、耐荷重4tが要求されているにもかかわらず、わずか500kgでフックが脱落しました。つまり、設計レベルがとても低いということになり、この設計者の力量が疑われます。

❸ 一義的に伝える

  •   悪い例:本件、できるだけ早く、回答してください。

 「できるだけ早く」という伝え方では、緊急度が分からないので、明日中なのか、今週中なのか、人によって受け止め方が変わります。

  •   良い例:本件、明日16時までに回答してください。明後日の朝一番で、御社の回答を含めた提案書を私たちの重要顧客に送る必要がありますので、何卒よろしくお願いいたします。

 この伝え方では、回答の期限を明確にしているので、他の意味を排除できます。これが一義的な伝え方です。また、回答を受け取った後の行動を説明していますので、なぜ「あす16時まで」なのかも、相手に伝わります。

 

 このように、一義的とは、1つだけの意味を有していて、他の意味を排除するので、誤解や思い違いが起こりません。

❹ 形容詞を使わずに伝える

  • 悪い例:品質不良品が顧客へ流出しないように、強固な検査体制を構築しました。 

 この表現で、検査体制を強化したことは分かりますが、「強固な」では、どのような検査体制を構築したのか不明です。

  •   良い例:品質不良品が顧客へ流出しないように、過去の流出事例を参考にして、検査項目、検査基準、検査方法、検査頻度、検査NG時の対応について見直し、検査手順書改定後、検査員の教育を実施しました。

 このように、検査手順を具体的に表現することで、どれだけ「強固な」検査体制を構築したかが分かります。形容詞を使わないということは、すなわち、具体的・定量的・一義的に伝えることと同じです。

 

 形容詞は、小説や詩で感情を伝えるには有効かもしれませんが、誤解が致命傷になるビジネスの現場では不向きです。「形容詞に逃げない」表現を意識してください。伝える力が、劇的に変わります。

≪まとめ≫

 話が伝わらないのは当たり前だと思ってください。形容詞を使わずに、具体的・定量的・一義的に伝えることで、話し手の意図が聴き手に伝わることでしょう。「伝える」ではなく、「伝わる」ことを意識して、「伝わる」ための工夫が必要です。 

 

 もう1つ、相手に伝えた後、自分の意図が伝わったかどうかを確認してください。仮に、伝え方でミスがあっても、相手に確認することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

コミュニケーションミスによるトラブルのほとんどが、伝え方に原因があることを多く見てきました。

≪実践コーナー≫

 社内でのプレゼンの機会等を活用して、ぜひ、この伝わる伝え方をチームで実践してください。そして、伝えている内容が、形容詞を多用していないか、具体的・定量的・一義的に伝わっているか、チーム内で確かめてください。一流社員ほど、話しが具体的です。ぜひ、伝え方を工夫して、さらなる高みをめざしてください。


4 - 6. 聴く力 ⇒ 相手の要求を読み解く力

 トラブル・事故を防ぐ未然防止の実践には、相手の要求・真意を読み解くための「聴く力」が不可欠です。その「聴く力」をどう磨くべきかを具体的に考えてみましょう。

❶ 聴くだけでは不十分 ⇒  行動につなげてこそ意味がある

 「人の話をよく聴きなさい」という指導を受けたことがある方は多いでしょう。しかし、話を聴いただけでは、残念ながら事故やトラブルの未然防止にはつながりません。重要なのは、聴いて終わりではなく、聴いたことを実践に移すことです。

 

 たとえば、現場でヒヤリハットの声が上がったとき、その情報を「なるほど」と受け止めただけでは不十分です。その情報をどう活かすか、実際に現場の作業手順を見直す、再発防止策を検討する、社員教育に取り入れるといった具体的な行動へ移さなければ意味がありません。

 

 知識としてインプットしたことを、現場で実際に試して改善する。知識の習得(Input)と経験(Output)の循環こそが、聴く力を未然防止に活かす最大のポイントです。

 

❷ 相手の要求を正しく読み解く ⇒ 読解力と理解力の重要性

 未然防止を阻む大きな要因の一つが「コミュニケーションギャップ」です。言葉を聴いていても、相手の意図が誤解されたまま伝わらず、結果としてミスが繰り返されるケースは後を絶ちません。

 

 たとえば、作業現場の班長が「今月中に手順を改訂しておいて」と言ったとします。この言葉だけを鵜呑みにすると「書類を作れば良いのか」と誤解する人が出るかもしれません。

 

 しかし、班長が本当に伝えたかったのは、「改訂した手順を周知して、作業者が正しく動ける状態にすること」だったとしたらどうでしょう。目的と手段がズレると、事故の芽は摘めません。

 

 聴く力には、言葉の奥にある「相手が何を求めているのか」を読み解く読解力が必要です。相手の立場や状況を想像し、確認しながら聴く姿勢が、未然防止の質を高めます。

 

❸ 「質問ゼロ」は危険信号 ⇒ 質問する勇気が安全文化をつくる

 「何か質問はありますか?」と尋ねても誰も手を挙げない会議は多いでしょう。しかし、これは決して理解が深まった証ではありません。むしろ、質問が出ないのは、聴き手が本当は理解していないか、意見を言いにくい空気が職場にある場合がほとんどです。

 

 日本では「質問をする=理解していないと思われる」と受け取られる風潮があります。しかし、グローバルビジネスの現場では、疑問点を残したまま黙っているほうが大きなトラブルにつながると考えられています。

 

 もし指示に矛盾を感じたり、理解に自信がなかったりする場合、質問して確認するのが責任ある行動です。また、異論があればきちんと発言すること。沈黙は賛同の証と受け取られてしまうため、黙っていることが後々大きな誤解を生むのです。

 

 未然防止においては、「質問ゼロ」は安全文化の未成熟を表す危険信号だと考えましょう。

 

❹ 「聴く力」を鍛えれば、組織が変わる

 聴く力は、個人のスキルのように思われがちですが、組織全体で意識して磨くべき力です。たとえば、ある製造業の現場では、ベテラン作業員の暗黙知を若手に引き継ぐ際に、若手が「分かったつもり」で聞き流すことが大きなトラブルにつながりました。

 

 そこで、「必ず質問を1つする」ルールを設けたところ、ベテランが伝えきれなかった重要ポイントが浮き彫りになり、未然防止の質が飛躍的に高まったのです。

 

「聴く力」は単なる情報収集ではなく、相手の言葉をどう受け止め、行動につなげるかを考える総合力です。そして質問や対話を通じて、チームの信頼関係も深まります。

 

 特に、上司が部下の話をただ「聴く」のではなく、「一緒に改善策を考える」という姿勢を示すことで、現場のコミュニケーションは格段に活性化します。

 

≪まとめ≫

 未然防止を「机上の空論」で終わらせないためには、現場の声を聴く力が不可欠です。そして、聴くだけでなく、聴いたことを行動に移し、理解を確認し合い、コミュニケーションギャップを埋めることで、組織の安全文化は育ちます。

 

 聴く力を磨き、質問を恐れず、対話を重ねる。その積み重ねが、トラブル・事故ゼロの職場を実現する未然防止の土台になるのです。