1-1, ミス(ヒューマンエラー)とは

 業務の中で発生する「ミス(ヒューマンエラー)」は、品質不良やクレーム、重大事故の引き金になることが少なくありません。しかし一口に「ミス」と言っても、その本質を正しく理解していなければ、再発防止策も的外れになり、効果を上げることは難しいでしょう。

 

 本記事では、ビジネスの現場で活用できる視点で、「ミスとは何か」について、事例を交えながら解説します。

(1) ミスとは「本来すべきこと」と「実際にしたこと」のギャップ

ヒューマンエラーとは、「人が意図せずに引き起こす誤り」と定義されることがありますが、ここでは、人が意図して引き起こす(故意による)間違いもミスに含めます。より本質的には、「本来すべきこと」と「実際にしたこと」にギャップが生じた状態を指します。

 

 たとえば、製造現場で検査担当者が、10mmの金属棒を「10.2mm」と測定したとします。これが許容範囲(公差)±1.0mmなら、問題ありません。しかし、公差が±0.1mmだった場合は明らかにルール外であり、「ミス」と判定されます。このように、行為そのものは同じでも、基準が変わることで結果の評価が変わるのです。

 

 この事例から分かるように、ミスとは「絶対的なもの」ではなく、ルールという「あるべき姿」に依存する「相対的なもの」なのです。

(2) 「相対的なミス」という概念が重要な理由

ビジネスにおけるトラブルの多くは、「誰かのミス」として処理されがちです。しかし、その背景にあるルールや基準が明確でなかったり、そもそも共有されていなかった場合、それは「教育・訓練ミス」や「仕組みの不備」であり、個人の責任とは限りません。

 

たとえば、ある物流会社で「荷札の貼り間違い」が発生したケース。担当者は「いつものルール通り」に作業していたものの、実はその日だけ特別な出荷順が求められていました。上司は口頭でしか説明しておらず、マニュアルにも記載がありませんでした。このような場合、担当者の行動が「ミス」だったとしても、それを個人の能力や注意力のせいにするのは不適切です。

 

このような観点から、「なぜそのギャップが生まれたのか」「そもそも本来すべきことが明示されていたのか」といった分析が重要となります。

(3) ミスの4象限で理解する:知っていたか、気づいていたか

ミスには、大きく4つのパターンがあります。

 

ミスの類型

ルールを知っていたか

ミスに気付いていたか

A:単純なうっかりミス

知っていた

気付いていた

B:気づいていない誤操作

知っていた

気付いていない

C:知識不足によるミス

知らなかった

気付いていない

D:意図的なルール逸脱

知っていた

知っていた(確信犯)

 

 特にDタイプのミスは、不正・不祥事に発展する可能性があり、組織にとって深刻なリスクをはらんでいます。たとえば、検査結果を改ざんして納期に間に合わせたケースでは、「守るべきルールを知りながら」「わざと外れた行為」をしているため、単なるミスではなく「意図的な逸脱=不正」となります。

(4) 再発防止には「ルールの明確化」と「仕組みづくり」が不可欠

ミスを防ぐためには、単に「注意喚起」を繰り返すのでは不十分です。再発防止の本質は、「なぜその人がルールを知らなかったのか」「なぜ、気づけなかったのか」を徹底的に掘り下げる必要があります。

 

 再発防止策の具体例:

  • 作業基準書に公差条件や注意事項を明記する
  • 特別なルールがある場合は、**ビジュアルで明示(色分け、ポップ、フロー図など)**する
  • 作業前に**ポイント確認ミーティング(KYM**を実施
  • 誤操作が発生しにくいように、**機械的・物理的な工夫(ポカヨケ)**を施す

 このように、ミスは「人の責任」だけにせず、仕組みの責任として捉えることで、組織としての成熟度を高めることができます。

まとめ:ミスを正しく捉え、成長の糧に

「ミス」とは、本来すべきこと(あるべき姿)と実際にしたこと(現状の姿)とのギャップであると定義します。そして、それがミスかどうかはルールや文脈次第で決まり、絶対的なものではありません。

 

ビジネスの現場では、「誰が悪いか」よりも、「なぜギャップが生じたのか」に目を向けることで、再発防止につながります。人の責任を追及するのではなく、仕組みやルールに立ち返り、学習と改善を繰り返すことが、ミスを未然に防ぐ最も有効なアプローチです。