6-1 未然防止活動の目標設定

 未然防止活動において、定量的目標設定は活動を形骸化させず、具体的な成果へと結びつけるために不可欠です。単に「安全に気をつけよう」といったスローガンを掲げるだけでなく、数値で測れる明確な目標を設定することで、活動の進捗を可視化し、組織全体を同じ方向へと導くことができます。目標設定の目的と方法を論理的に解説します。

(1) 定量的目標設定の目的 ⇒ 結果とプロセスを評価する

 未然防止活動において定量的目標を設定する最大の目的は、活動の成果とプロセスを明確に評価することにあります。目標が曖昧であれば、何が達成され、何が達成されていないのかが分からず、活動は次第に勢いを失います。

 

 目標は大きく分けて、次の2つの指標で構成されます。

① KGI (Key Goal Indicator: 重要目標達成指標)

 これは「結果評価」に相当し、組織全体の最終目標です。例えば、「顧客クレームの半減(年間10→5件)」や「工程内不良率、30 ppm→10 ppm」といったように、最終的に目指すべき成果を定量的に示します 。

② KPI (Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)

 これはKGIを達成するための「プロセス評価」であり、各事業部門や現場に課せられた具体的な行動目標です 。これは、最終的な結果に繋がる「正しいプロセス」が実施されているかを確認するために設定されます 。

(2) KGIとKPIの論理的な関係性

 KGIKPIは、論理的な繋がりを持たなければ意味がありません。KPIは、KGIを達成するための具体的な施策に繋がる指標となります 。

 

 例えば、KGIを「顧客クレームの半減」と設定した場合、それを達成するためのKPIとして以下のような項目が考えられます 。

  • 顧客クレームに関する再発防止策の振り返り100%実施
  • ヒヤリハット対策実施70
  • 流出原因調査100
  • 将来リスクの気付き件数
  • 未然防止策実施件数

 これらのKPIは、顧客クレームの発生を未然に防ぐための具体的な行動そのものを数値化したものです。もし、KGIが達成できなかったとしても、どのKPIが未達であったかを分析することで、問題の所在を特定し、次なる改善策を立てることができます。

 

 このように、KGIKPIは、未然防止活動をPDCAサイクルに乗せ、継続的に改善していくための指針となります。

(3) KPIの目標設定方法

 KPIの効果的な目標を設定するにあたって、次の点にご注意ください。

  • 定量化できる指標にする ⇒ 誰が見ても同じように評価できる、客観的な数値目標を設定することが重要です 。例えば、「安全意識を向上させる」といった曖昧な目標ではなく、「ヒヤリハット報告件数を月10件以上にする」のように具体的な目標を設定します。
  • KGIと結びつける ⇒ 設定するKPIは、必ずKGIの達成に貢献するものであること 。無関係なKPIを設定しても、組織の目標達成には繋がりません。
  • 具体的な行動計画に落とし込む ⇒ KPIは、単なる数値目標ではなく、それを達成するための具体的な行動計画とセットでなければなりません 。例えば、「ヒヤリハット対策実施70%」というKPIを設定した場合、そのための具体的な行動(例:対策検討会議の開催、責任者の明確化など)を計画に盛り込みます。

 これらの方法に従って目標設定を行うことで、未然防止活動は単なる精神論に終わらず、組織全体を巻き込んだ、具体的かつ継続的な改善活動へと発展します。


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