1-3 なぜ、ミスが起こるか(心理学からの考察)

 ミスが起こる要因の1つとして、人間の心の歪みがあります。

 ここでは、なぜミスが起こるかについて、心理学の視点から解説します。

(1) 正常性バイアス(不都合な情報を軽視する心理)

 正常性バイアスとは、自分にとって都合の悪い情報を無視し、過小評価してしまう人の特性のことです。人間の心は、予期せぬ出来事に対して、ある程度「鈍感」にできています。


例えば、製造現場で機械の異音が聞こえても、「今まで大丈夫だったから今回も問題ないだろう」と判断し、点検を怠るケースがあります。つまり、異常に出会っても、正常だと自分に言い聞かせて、問題がなかったことにしてしまう傾向があります。結果として、小さな異常が重大なトラブル・事故につながることがあります。

 

 対策としては、異常を見過ごさない訓練を行ない、チームで事実を客観的に確認する仕組みを持つことが重要です。


(2) リスクテイキング行動(利益を過大評価し、リスクを過小評価する)

 私たちは、行動を起こす際、行動で得られる「利益」とその行動による「リスク」を比較します。しかし、とかく主観的な判断で、目先の利益を過大評価(優先)し、リスクを過小評価する傾向にあります。


 例えば、工事現場で安全帯を着けずに作業する作業員は、「手間が省けて作業時間が短縮できる」という利益を過大評価し、「墜落する危険」というリスクを過小評価しています。その結果、墜落事故という重大事故に遭遇するかもしれません。


 対策としては、チームで客観的に、利益を過大評価することなく、リスクについて正しく評価することが必要です。


(3) アドラー心理学の視点(目的意識と共同体感覚の欠如)

 アドラー心理学では、過去の原因よりも「目指すべき目的」に焦点を当てることを重視します。目的意識が不明確なまま作業すると、集中力が下がり、ミスが増えます。


 また、職場での「共同体感覚」― 仲間とのつながりや心理的安全性が欠けると、人はモチベーションを失い、注意散漫になります。例えば、孤立感を抱えた社員が、自分の意見を言い出せず、製品の欠陥を見逃すといった事例があります。


 対策は、作業目的を明確に共有し、チーム内での信頼関係を築くことです。



★ この3つを組み合わせて考えると、ミスは単なる不注意や能力不足ではなく、人間の心理特性や職場環境と密接に関係していることがわかります。