未然防止とは、将来起こり得るトラブルや事故のリスクを事前に見つけ出し、その発生を防ぐ活動です。しかし、起きていないことに対して対策を講じるためには、「未来を想像する力」と、「具体的な対策を創り出す力」が不可欠です。
多くの企業では、事故やトラブルが発生してから対応する「事後対策」が中心で、未然防止は後回しにされがちです。その理由のひとつは、まだ発生していないリスクを“見える化”するのが難しいからです。
ここでカギとなるのが、他社・他業界の事例を活用した想像力と創造力です。
(1) 想像力:他社の失敗を自社に置き換える力
「他社のふり見て、自社のふり直せ」⇒ これは未然防止を成功させるうえで非常に重要な視点です。
≪事例:食品工場の異物混入対策≫
ある大手食品メーカーでは、他社で発生した「異物混入による大規模リコール」のニュースをきっかけに、自社の生産ラインを徹底的に点検しました。
その結果、今まで見落としていた微細なゴム片混入のリスクを発見し、ゴム製部品の交換サイクルや点検ルールを改善しました。
もしこの企業が、「うちは異物混入なんて起きていないから関係ない」と考えていたら、近い将来、同様の事故を経験していたかもしれません。
他社の失敗を「自社に置き換えて想像する力」が、未然防止の第一歩です。
(2) 創造力:自社の現場で起こるかもしれない事故を創り出す
想像力で得た他社の事例を参考に、次は「自社の現場で起きる可能性があるトラブルや事故」を具体的に創造することが重要です。
≪事例:建設現場の転落事故防止≫
ある建設会社では、同業他社で高所作業中の墜落事故が発生した際、すぐに自社現場のリスクを洗い出しました。「同じ高さ・同じ作業手順の現場が自社にもある」と想定し、現場ごとに写真付きでシミュレーションを行いました。
さらに、墜落防止用の独自の安全帯を考案し、作業手順を改定しました。結果として、この会社では重大事故ゼロを継続しています。
単なる「想像」だけではなく、リスクを現場に即した形で具体的に創造することが未然防止の成功要因です。
(3) 「関係ない」と思った瞬間に学びは止まる
未然防止を阻む最大の落とし穴は、「うちには関係ない」という思い込みです。他社の事故や他業界のトラブル事例を無関係と考えた瞬間、そこから得られるはずだった学びが消えます。
≪医療業界から製造業が学んだケース≫
ある医療機器メーカーでは、病院で発生した「取り違え事故」のニュースを見て、医療業界の事故事例を研究しました。そこで得た「識別ラベルの色分けとバーコード管理」という対策を、自社の部品管理に導入した結果、出荷ミスが劇的に減少しました。
他業界の失敗事例も、視点を変えれば自社の改善材料になります。想像力を働かせて「自社だったらどうなるか」を考えることで、他業界からも多くの学びを得ることができます。
(4) 未然防止に必要な3つのステップ
未然防止を実現するためには、想像力と創造力を具体的な行動に落とし込む必要があります。
次の3ステップが効果的です。
① 事例収集 ⇒ 他社・他業界の事故・トラブル事例を積極的に集める。
② 自社への置き換え ⇒「もし自社で同じことが起きたら?」とシナリオを描く。
③ 対策を創造し実行 ⇒ 現場の状況に合わせた独自の対策を立案し、実践する。
このプロセスを繰り返すことで、単発的な対策だけではなく、組織文化としての未然防止が根付いていきます。
(5) まとめ:想像力と創造力が未来を守る
未然防止は、単なる技術や手法ではなく、未来を描く力に基づいた経営戦略です。
- 他社・他業界の事例を「自社に置き換えて想像」する
- 自社現場で起こり得るリスクを「具体的に創造」する
- 「関係ない」という思い込みを捨てる
この3つを実践することで、トラブル・事故を未然に防ぎ、企業価値を守ることができます。