2-3 なぜ、未然防止が定着しないか?

 未然防止は、トラブルや事故の発生そのものを封じ込める極めて有効な考え方ですが、多くの企業では十分に根付いていません。その背景には、次のような要因があります。

(1) 認知度と理解不足

 多くの企業では、「トラブルは起きてから対処するもの」という文化が根強く、未然防止の重要性が十分に理解されていません。

 

 結果として、再発防止や事後対応には力を入れても、「まだ起きていないリスク」への関心は薄く、未然防止が経営方針や現場活動に反映されにくい状況があります。

(2) 未然防止は評価されにくい

 未然防止は将来のための活動です。よって、活動を開始したからと言って、すぐに効果が出るわけではありません。その際、評価者をする人が、短期的なコスト削減だけに注目していると、未然防止活動を実行している人は、当面は全く評価されません。評価されない仕事は、誰もやりたくありません。

 

 未然防止活動は長期的な視点に立つことが肝要ですが、そうは言っても、活動の結果が、何らかの数値で確認できることは必要です。

 

 そこで、未然防止活動の プロセスを評価するために、将来リスクの気付き件数、未然防止策実行件数等の KPI を設定することで、活動の進捗を評価できます。

 

 ぜひ、未然防止活動の数値目標を設定することで、未然防止が社内で評価される活動として、位置付けてほしいと思います。

(3) 指導者不足

 未然防止には、リスク予見の方法や事故発生メカニズムの知識、組織変革の経験など、専門的なスキルが必要です。

 

 しかし、多くの企業ではそのような人材が育成されておらず、現場は「どう進めればよいか分からない」状態になり、活動が形骸化し、掛け声だけで終わっているケースが散見されます。

 

 人事部門と事業部門が一体となって、人材育成の道筋を築いていただきたい。一時的に、外部人材を採用することもありですが、長期的には、社内で未然防止を主導できるリーダーを育成すべきと考えます。

(4) 抵抗勢力と文化的障壁

 未然防止の導入は、企業文化を変革することですが、その変革には必ず「現状を変えたくない」という「現状維持を好む抵抗勢力」が存在します。ただし、この抵抗勢力と戦ってはいけません。

 

 なぜ抵抗するのかという根本的な理由を確認して、抵抗勢力を仲間に引き込むことが必要です。


 未然防止は、既存のやり方や慣習の見直しを伴うため、「面倒だ」「成果が見えない」といった理由で反発が起こり、推進が妨げられます。特に、保守的な企業文化では導入が遅れます。

 

 未然防止活動の初期段階は、経営トップの強い変革への意思が必要です。変えられない限り、変わりません。未然防止導入は、企業文化の変革を促すきっかけとなるでしょう。

(5) リスク発見力が弱い

 欧米諸国と比べて、リスクマネジメント力が弱いと感じています。日本は、四方が海に囲まれていて、歴史を振り返れば、一度も他国から侵略されていません。よって、「安全と空気はただ」という風潮があります。

 

 欧米諸国で多くのビジネスを経験してきた筆者から見れば、日本は潜在的に、リスクに対する感性が不足していることで、将来リスクを発見する力が弱いように感じています。

 

 日常業務のなかで、チームのみなさんと常に、目の前の製品や業務プロセスでどんな将来リスクが潜んでいるのかについて、議論を重ねていただき、リスクに対する感性を高めてください。


★ 未然防止活動が軌道に乗ってくると、モチベーションが上がって、仕事そのものが楽しくなります。ぜひ、未然防止の醍醐味をチームで味わってください。

 

★ 次は、未然防止に必要な知見・経験について、お伝えします。