≪事例研究2≫ 通園バスのなかに、園児が取り残され死亡

なぜ園児の安全が優先されないのか?

 日本中を震撼させた痛ましい事故が、2年連続で起こりました。いったい何があったのか、なぜ起こったのか、当時を振り返り、2度と悲しい事故を起こさないために何をすべきかを検証します。

(1) 事故の概要と発生状況

 

① 福岡県中間市(2021729日)
 午前8時半ごろ、送迎バスで登園した園児(5歳男児)が降車時に確認されず、車内に約9時間放置されました。同日午後515分ごろ、降園のためにバスに乗せようとした際に発見。搬送先で死亡が確認されたということです。

 

 発見時、園児はシートベルトを締めたままで、熱中症による死亡とみられます。当日は猛暑日で、車内温度は50℃近くまで上昇していたと推定されます。

② 静岡県牧之原市(202295日)

 午後210分ごろ、認定こども園の駐車場に停められていた通園バスの車内で、園児(3歳女児)が意識を失っているのを職員が発見。救急搬送されたが死亡が確認されました。

 

 午前中の送迎後、降車確認が行われず、園児は約5時間にわたり車内に取り残され、外気温は30℃を超えていました。車内は高温になり、熱中症により死亡したとみられます。

(2) 共通する要因

 2つの事故に共通する要因は「降車確認の不徹底」です。なぜ長時間、車内に放置されたのか? 考えられる要因としては、次のことが考えられます。

 

  • 人数確認不足:出欠確認や人数点呼が形式的に行われ、乗降者リストの実効性がなかった。
  • 役割分担の曖昧さ:運転手・添乗職員・保育士の間で「誰が最終確認を行うか」が明確でなかった。
  • 物理的確認の欠如:車内最後尾までの目視確認や座席の一つ一つのチェックが行われず、特に子どもの姿が見えにくい座席配置や死角が放置された。

 このような確認の不備は、バス降車時に園児を確実に発見できる仕組みが存在しない、または形骸化していたことを示しています。

(3) 背景にある組織的・構造的問題

 この2つの事故は、単なる「確認漏れ」ではなく、次のような組織的・構造的な脆弱性が背景にあるのではと推察します。

① 安全管理体制の欠如

 安全に関する手順やマニュアルが存在していても、それが日常業務に定着していなかった。安全点検は単発的・形だけで行われ、責任の所在が不明確だった。

 

② ヒューマンエラーを防ぐ仕組み不足

 人の記憶や注意力に依存した安全確認であり、ダブルチェックや物理的装置(置き去り防止装置、降車後アラーム等)の導入がなかった。

 

③ 安全文化の未成熟

 「バス置き去りは起こらないだろう」という過信や、日々の業務の中での安全優先順位の低下が見られた。安全を確保するための行動が時間短縮や効率化の中で省略されていた可能性がある。

 

④ 情報共有不足

 園児の欠席・遅刻情報がバス運行担当者と園内職員の間で共有されず、「乗っていないはず」という思い込みを招いた。

(4) 根本原因追究

 根本原因の追究なくして、再発防止はあり得ません。この2件の事故の報道に注目していました。しかし、真因(根本原因)につながることは、ほとんど報道されていません。ぜひやってほしいことは、当事者の本音と言い訳を聴くことです。たとえば、

  • 無届け出で園児が欠席したとき、親に確認しなかったのはなぜか?
  • 車内に取り残された園児に、気付けなかったのはなぜか?
  • 園児の安全を確保する以上に、優先すべきことはあるか?
  • バスの運転手、園長、保育士等の関係者が一番優先すべきことは何か?

(5) まとめ

★  保育園・幼稚園の関係者は、園児の安全確保を最優先すべきことは、誰も疑うことはないでしょう。にもかかわらず、園児の安全を最優先できなかった真因(根本原因)を追究するべきです。

 

★ 降車時に最後部まで移動しないと解除できないアラームの設置とか、複数人で確認するダブルチェック方式の採用のような小手先の対策では、この種の事故は防げません。

 

★ 当事者の本音と言い訳から、何が欠けていたのか、何が事故につながったのかについて、今一度関係者で考えてほしいです。

 


 

第2章を復習する方は、こちらへ ⇒


 

第3章へ進む方は、こちらへ ⇒