未然防止活動の中で最初に求められるのが「緊急対応」です。これは、トラブルや事故が発生した直後の対応であり、被害の拡大を防ぎ、後続の原因究明や再発防止策につなげるための土台となります。
緊急対応が遅れたり誤った方向に進んだりすると、軽微な不具合が重大事故に発展し、人的・物的・社会的損失が増大します。逆に、適切な初動対応は被害を最小限にとどめ、関係者からの信頼を高める効果もあります。
(1) トラブルに気付く
緊急対応の第一歩は「トラブルに気付くこと」です。気付きが遅れると、致命的な結果を招くことがあります。一例として、沖縄首里城の火災では、火災発生の気付きが遅れたことが全焼という最悪の事態につながりました。
トラブルとは、「あるべき姿」と「現状の姿」の差(ギャップ)ですが、トラブルに気付くためには、「あるべき姿」と「現状の姿」を明確に把握していることが不可欠です。この2つを明確に比較できなければ、異常に気付けないまま事態が進行してしまいます。
例えば、製造現場での寸法検査では、基準値を正確に理解していなければ、不適合品が混入しても発見が遅れるかもしれません。
トラブルに気付くためには、「あるべき姿」を常に意識して、「現状の姿」を把握することが、トラブルに対する感性を高めることにつながります。
(2) トラブルの事実を正しく把握する
トラブルの事実を正しく把握することが大切ですが、この「正しく」という意味は、事実を「具体的・定量的・客観的」に把握することです。あいまいな表現では、この後控えている原因分析や関係者への説明が困難になり、再発防止策も的外れになるリスクがあります。
- NG例:「寸法違い」だけでは何がどれだけ違っているのか不明。
- OK例:「製品の全長は本来10mm ± 0.1mmだが、不具合品は9.8mmのものが10個発生した。」
なお、この正しく伝えるについては、第4章、4-4. 伝える力1で、詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
さらに、トラブルを起こした当事者から「本音」と「言い訳」の両方を丁寧に聴き取ることで、現場の状況や背景を深く理解でき、真因の手がかりとなります。このとき、当事者を非難することなく、事実確認の姿勢を持つことが重要です。
(3) トラブル発生後の初動が大切
トラブル発生直後の初動は、緊急対応の成否を左右します。状況に応じて、以下のような優先順位で行動します。
① 災害・事故の場合:
・人命救助(最優先)
・応急処置(負傷者への対応、火災の初期消火など)
・機械停止(二次被害防止)
・類似リスクの確認(同様の危険が他にないか即座に確認)
② 顧客クレームの場合:
・顧客の怒りを鎮める(謙虚な謝罪と当面の対応説明で、信頼確保)
・不具合品の隔離(市場や他の顧客への流出防止)
・原因調査の準備(初期情報の確保)
初動を間違えると、被害が拡大します。例えば、製品不具合が発覚しても隔離せずに出荷を続ければ、顧客範囲に被害が広がり、リコールやブランド毀損に直結します。一方で、的確な初動は逆に「迅速で誠実な対応」として評価され、企業や組織の信用度を高めます。
(4) まとめ
第1ステップの緊急対応は、未然防止3ステップ対策の出発点であり、最も時間的制約が厳しく、判断力と行動力が問われる局面です。「あるべき姿」と「現状の姿」を常に意識して監視し、異常をいち早く発見・定量的に把握する。
人命・安全を最優先に行動し、被害拡大を防ぎながら事実情報を正確に収集する。この積み重ねが、後続の原因追究から再発防止、そして未然防止を成功させる基礎となります。