未然防止活動において、現場の人たちが働きやすい環境を作ることは、不可欠です。その前提として、マネジメントが現場に過度な「無理」を押し付けないことが極めて重要となります。無理を強いることは、現場のモチベーションを低下させ、最悪の場合、不正や重大なトラブルの温床となりかねません。現場に無理を押し付けないマネジメントのあり方を解説します。
(1) 「無理」を放置することの危険性
現場に無理な要求を押し付け、それを放置することは、未然防止活動における最大の障害となります。無理な要求は「嫌なことはやらない、やったふりをする」という現場の行動につながります。
例えば、過度な人員削減が行われた現場では、本来必要な検査工程を省略したり、手抜きをしたりする「検査不正」が発生する可能性があります。
これは、現場が「リスクテイキング行動」をとってしまう状況と言えます。つまり、作業時間短縮といった目先の利益を過大評価し、不正や事故といったリスクを過小評価してしまうのです。
このような環境では、マネジメントが求める品質や安全基準は形骸化し、やがて不正が常態化する「不正の温床」となり得ます。
(2) 「過剰品質」という罠
未然防止活動においては、顧客の要求を正確に把握し、過度な要求を現場に押し付けないことも重要です。顧客の過剰な要求レベルを見直し、過剰品質の可能性を検討する必要があります。過剰な品質は、現場に不必要な手間や作業負担を強いることになり、結果として生産性の低下を招きかねません。
顧客は安全サイドを要求してくる傾向があります。例えば、見た目の美しさを追求したり、必要以上に厳しい公差を設けたりすることがこれに当たります。このような場合、現場は無理な作業を強いられることになり、その結果として「検査の手抜き」や「不適切な対応」といった、別のリスクが発生する可能性が高まります。
本来の目的である品質や安全を守るためには、「守れないルールに対する声を聴く」ことが不可欠です。マネジメントは、顧客と交渉し、合理的な要求レベルを設定することで、現場が納得して働ける環境を整える必要があります。
(3) 現場に寄り添うマネジメントのあり方
現場に無理を押し付けないための最も効果的な手段は、「カイゼン」です。カイゼンとは、まさにこの「無理を排除する」活動そのものです。マネジメントは、ただ目標を掲げるだけでなく、現場と協力して作業プロセスそのものを改善し、無理をなくしていく姿勢を示すべきです。
これには、以下の点が重要となります。
- 現場の意見に耳を傾ける: 現場は「良くも悪くも正直」です。マネジメントは、現場の意見を真摯に受け止め、正直な声に耳を傾けることで、無理な状況を早期に発見できます。
- 率先垂範: マネジメントが自ら現場に足を運び、現物を確認する三現主義を尊重する姿勢は、現場の意識を高めます。口先だけでなく、自らが範を示すことで、現場はマネジメントを信頼し、主体的に改善活動に取り組むようになります。
- 正当な評価: 現場の地道な努力や、改善への貢献を正当に評価することも重要です。努力が無反応に終われば、現場はやる気を失います。小さな改善でも称賛することで、未然防止活動は継続的な文化として根付いていきます。
これらの取り組みを通じて、マネジメントは現場との一体感を醸成し、現場の力を最大限に引き出すことができるのです。